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コラム

2026/01/26

第3回【経験】 レースと現場で学んだ、「中古バイクは何を見ればいいのか」


「年間チャンピオンを6回獲った」と言うと、いかにも凄腕のライダーのように聞こえるかもしれません。でも、レースの世界が私に教えてくれた本当の価値は、速さそのものではなく、「バイクが発する小さなサイン」に敏感になることでした。

鈴鹿サーキットのような時速200kmを超える世界では、たった一本のボルトの緩み、あるいは目に見えないほどのパーツの錆やガタが、そのまま大事故に直結します。 「いつもと音が違う」「なんとなく振動が変だ」 その違和感を無視して走り続けることが、どれほど恐ろしいことか。私は身をもって、その「命の重み」を学びました。

この経験は、現在の中古バイクの仕入れや整備に直結しています。

例えば、フレームや足回りのわずかな「錆」。 見た目だけの問題ならいいのですが、場所によっては金属の疲労を招き、ある日突然、本来の性能を損なう原因になります。レースでマシンを限界まで追い込んできたからこそ、私は「今は大丈夫でも、数年後にトラブルを招く錆やガタ」の予兆を、五感で嗅ぎ取ることができるようになりました。

私が中古バイクの仕入れで、他店よりも少し「細かいこと」を言ったり、錆の状態にこだわったりするのは、単なる綺麗好きだからではありません。 お客様に、あの「違和感のあるバイク」に乗る怖さを、絶対に味わってほしくないからです。

「チャンピオンを獲った腕」は、今の私にとっては、お客様に渡す一台の「安心」を見極めるための道具にすぎません。 スペック表には載らない、プロの目利き。それは、サーキットという極限の現場で、泥臭く積み上げてきた経験から生まれているのです。 』

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